抗がん薬や支持療法薬の開発で、がんの治療効果は飛躍的に向上しました。
そのおかげで、これまでできないとあきらめていた手術も、〈薬物療法で縮小させてから手術にもちこむ〉という手順で可能になる例がふえています。
香川大学医学部附属病院腫瘍内科教授の辻晃仁医師は、「最新の多剤併用療法、分子標的薬、免疫療法の進歩は、将来的にがんの消失や人工肛門回避の可能性を高めます」と明言しています。
〈がんの消失・人工肛門回避〉を現実にするための闘いにいどむ辻医師の柔和な顔の下には、世界の注目を集める仕事を淡々とこなして動じない、したたかさが秘められているようです。
ctDNA|腫瘍マーカーと比べ、桁ちがいの精度
「いまから30年前、大腸がん治療での腫瘍内科の役割は“敗戦処理”でしたが、いまでは“先発”を任されることが多い。そのまま根治に持ち込む“先発完投”も珍しくない時代です」と辻晃仁医師。
一方でゲノム医療に基づく個別化医療(プレシジョンメディシン)も進化している。
辻医師が取り組んでいるのは、がんの再発転移とctDNAというがん由来の遺伝子の研究だ。
「ctDNAとは血中にふくまれる“がんの遺伝子のかけら”で、従来の腫瘍マーカーとくらべれば桁ちがいの精度がある。
ctDNAが陽性のときは再発の可能性が高いので効率的な薬物療法をおこなう。逆に陰性なら薬物療法は必要ない-という考え方ができるのです」
〈必要か不要かの選択が高い精度でおこなわれる〉ため、治療時、患者にムダな負担をしいることがないという。
大腸がんは“先発完投”なら根治も珍しくない時代に
抗がん薬や支持療法薬の開発は、治療効果を飛躍的に向上させた。
かつてはできないとあきらめていた手術でも、〈①がんを薬物療法で縮小させる②手術可能の大きさまでちいさくできたら手術にもちこむ〉という段階をふむことで、できるようになっている。
「従来なら人工肛門になっておかしくなかった症例でも、最新の手術に加え、周術期*に上手に薬物療法や放射線療法を組み合わせることで、回避できることがふえてきました」
最新の「多剤併用療法」「分子標的薬」「免疫療法の進歩」は、将来の〈がんの消失〉や〈人工肛門回避の可能性〉を現実にするために欠かせない要素だ。
*周術期とは 周術期とは、患者さんの、〈外来で手術が決定してから入院、麻酔・手術、術後回復、退院・社会復帰までの、術中だけでなく手術前後を含めた一連の期間〉のこと
・周術期参照pdf
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香川大学医学部附属病院腫瘍内科|総合的ながん診療を推進
辻晃仁医師が注目されている「香川大学医学部附属病院腫瘍内科」では、
専門性の高い総合的ながん診療をおこなっています。
平成19年4月1日に設立した腫瘍センター(現 がんセンター)でがん診療を始めた後、平成26年4月1日、さらに専門性の高い総合的ながん診療推進のため、腫瘍内科を開設しました。
腫瘍内科は、
・がんの手術・抗癌剤・放射線治療など、集学的治療の実施
・診療科間のがん診療連携
・がん治療に係る医療機関等との連携とその推進
・がん予防・診療についての研修と啓発
・支持療法*、緩和ケアの推進
をおこなっています。
*支持療法(しじりょうほう)とは
がんそのものにともなう症状や、治療による副作用・合併症・後遺症による症状を軽くするための予防、治療、およびケアのことです。
たとえば、
・感染症に対する抗菌薬の投与
・薬物療法の副作用である貧血や血小板減少に対する適切な輸血療法
・吐き気や嘔吐(おうと)に対する制吐剤(せいとざい:吐き気止め)の使用
などをおこないます。
腫瘍内科では、がん患者さんにとって最適ながん医療の提供をめざし、最適な治療方針を患者さんにおつたえしています。
また、腫瘍内科専門医〈平成30年4月1日現在は、がん薬物療法専門医4名(うち指導医2名)〉による、各種のがん相談やセカンド・オピニオンにも対応。
エビデンスを得るための臨床研究や基礎研究を強力に推し進め、数多くの未承認薬剤の国際共同開発研究(治験)を、実施しています。
がん治療に“がん漢方”サポート外来を開設
また、これまでも、がん治療には、腫瘍症状のみならず治療毒性や基礎疾患を含めた支持療法をおこない、総合的ながん治療をしてきましたが、
今回、標準治療で改善しにくい患者さんの諸症状に漢方薬を活用する “がん漢方”サポート外来を開設しました。
・対応は日本東洋医学会漢方専門医…
がん薬物療法専門医でもある日本東洋医学会漢方専門医が対応困難な諸症状のある患者さんに漢方薬処方をおこないます。
これにより、がん治療に関連した毒性(副作用)や後遺症などに対する支持療法を強化、がん治療のさらなる向上をめざします。
●緩和ケアのとりくみ
緩和ケアについては、〈緩和ケアチーム・緩和ケア外来〉により、外来・入院患者さんどちらにも、
・痛み
・身体的問題
・心理社会的問題
・スピリチュアル(宗教的・精神的)な問題
などについてきちんとした評価をおこない、それが障害とならないように予防・対処することで、療養のQOL*改善に努めています。
*[QOL]クオリティ・オブ・ライフとは
治療や療養生活を送る〈患者さんの肉体的、精神的、社会的、経済的、すべてを含めた生活の質〉を意味します。
病気による症状や治療の副作用などによって、患者さんは治療前と同じようには生活できなくなることがあります。
QOLは、このような変化の中でも患者さんが自分らしく納得のいく生活の質の維持を目指すという考え方です。
治療法を選ぶときには、治療効果だけでなくQOLを保てるかどうかを考慮することも大切なのです。
引用:国立がん研究センターがん情報サービス
香川大学医学部附属病院腫瘍内科では、今後、がん患者さんにだけでなく、がん医療に携わるすべての方々にがん情報を発信していく予定です。
●対応疾患は臓器横断的に
腫瘍内科では、がんの発生メカニス゛ムの解明から、早期診断法の開発、 新規治療の開発、さらには、がん予防、早期発見、低侵襲治療、緩和医療などをしています。
対応疾患は臓器横断的(特定の臓器にかぎらずすべての臓器を対象として)に対応し、
消化器がん(大腸、胃、食道、小腸、虫垂、肛門管、消化管原発神経内分泌がん、肝細胞、胆道、膵臓)、頭頸部かんなどのがん腫では、
特に先進的な診断・治療を行っています。
さらに、原発不明がんや骨・軟部肉腫、稀ながん、などにも対応。
また、がんゲノム診療/医療として、よりよい治療薬や治療方法をいち早く患者さんに届けることを目的とした、全国の医療機関が一体となって参加する遺伝子スクリーニング(遺伝子の検査をして、目的の遺伝子変化を見つける事)プロジェクトに参加しています。
スクリーニングネットワーク23施設のひとつ
香川医科大学付属病院は、特に消化器がんの遺伝子スクリーニングネットワークであるGI-SCREEN-Japan/SCRUM-Japanの23施設の1つとして参加しています。
これは、
〈手術が行えない方や再発されている方〉に遺伝子スクリーニング(遺伝子の検査をして、目的の遺伝子変化を見つける事)を行い、遺伝子のタイプに合ったより良い治療薬を見つけたり、選択したりすることが目的です。
また、これらの結果をもとに、将来的に採取したがん細胞の遺伝子情報を解析し、そこからがんの原因となる遺伝子異常の発見があれば、それに適応する薬を投与する、というPrecision Medicine(プレシジョン・メディシン)につなげることも目的としています。
Precision Medicineは「精密医療」と訳される場合もありますが、個人の遺伝子情報などを含む詳細な情報をもとに「より精密な対応を行う医療」という、より高精度の「個別化医療」(予防・先制医療を含む)を意味します。
ロボット手術センター| 香川大医学部附属病院
香川大学医学部附属病院では、
ロボット手術を、安全かつ効率的に実施し、医療の充実を図ることを目的として2018年7月1日に多職種から構成されるロボット手術センターを設立しています。
ロボット手術は、日本では、2012年に前立腺がん手術に保険収載され、その後急速に普及がすすんでいます。
【ロボット手術の素晴らしさとは…】
ロボット手術は、ただ単に
・手術の傷が小さくてすむ
・術後の痛みが少ない
・入院期間が短くなる
という利点だけではありません。
・非常に明るい拡大視野のもとで手術ができる(なので、手 術で多い、細かく、繊細な作業をしやすい環境が得られる)
・自由度が高く、手ぶれのない手術が可能になる
ことが本当のメリットです。
つまり、人間の目や手だけではとうてできないような、
〈高いレベルの微細な解剖学的認識に基づく、繊細な手技が実現できる〉のです。
そのけっか、制癌効果や機能温存効果が高まり、QOL障害(生活の質を低下させる要因)を可能なかぎり減らすことができます。
ロボット手術は、日本では2012年に前立腺がん手術に保険収載され、その後急速に普及が進んでいます。
【ロボット手術の術式追加 保険診療】
2018年の3月まで、わが国の保険診療で認められた術式は泌尿器科の前立腺がん手術、腎臓がんに対する腎部分切除術の2つに限られていましたが、4月から新たに12のロボット手術術式が保険適応になりました。
その結果、
・泌尿器科では膀胱癌に対する膀胱全摘除術
・消化器外科、呼吸器外科、婦人科、心臓血管外科領域でも それぞれいくつかの術式がロボット手術で行えるようになっています。
香川大学医学部附属病院でも、新しいロボット手術術式を順次導入していますが、「ロボット手術の適応を拡大するためには、安全性の担保は欠かせません」と明記しています。
●まとめ
香川大学医学部付属病院は、消化器がん遺伝子スクリーニングネットワーク23施設の1つ。
大腸がん治療で世界的活躍が注目されている辻晃仁医師を中心に腫瘍内科を充実。国内/国際共同の臨床試験・治験・臨床研究を国際共同治験トップクラスの症例数でけん引、患者のよりよい状態から完治までの治療をめざしている。
香川大学医学部附属病院腫瘍内科では、今後、がん患者さんのみならずがん医療に携わるすべての方々にがん情報を発信していく予定。
また、その他の診療科も先進医療と救命救急に力をあわせてとりくみ、患者の権利の尊重、良質な医療の提供を目標とする医療機関である。
■辻 晃仁(つじ・あきひと) 香川大学医学部医学系研究科臨床腫瘍学教授。同大医学部附属病院腫瘍内科教授。高知市生まれ。1990年、岡山大学医学部卒業。94年、同大学院修了。高知医療センター腫瘍内科科長、神戸市立医療センター中央市民病院腫瘍内科部長を経て、2015年から現職。現在香川大学医学部附属病院腫瘍センター長、緩和ケアセンター長、がんセンター長、がんゲノムセンター長を兼務。医学博士。趣味はドライブとゴルフ。引用:産経デジタル
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